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イタリアのハーネスメーカー、ウッディーバレー社は今、リバーシブルハーネスのワニとワニライトで成功の波に乗っている。テルミック誌はイタリアの都市トレントにこの注目のメーカーを訪ねシモーネ・カルダーナ社長と会った。
ウッディーバレーとはイタリアのメーカー名としてはなんと変わった名称だろう!イタリア語から直訳しても何の意味かも分からない。国境のブレンナー峠を南へ越えながら、私の頭の中は、このほかにもいろいろな疑問でいっぱいだった。ほどなく我々は、シモーネ・カルダーナ、そして我々と時を分かつことになるウッディーバレーの重要なドイツインポーターのターンポイントの一行の歓迎を受けることなった。
ターンポイントのイロナ・アルブレヒトは、ウッディーバレー社との直接協議で細部を煮詰める良い機会ととらえており、また、大規模なハーネスの発注をまとめているところだった!ウッディーバレー社製品への需要は高まるばかりである!
「ウッディーバレー」の名の由来もまた同様に、最も重要なハーネスメーカーの一つでありながら、純粋な趣味から始まって発展してきた同社の社風を楽しく示す、一風変わっていて印象深いものだった。
70年代の終わりから80年代初頭にかけてシモーネ・カルダーナとエリオ・ヴァレンティは熱心なハンググライダーパイロットだった。彼らには裁断縫製の経験があり、また当時イタリアで優良なハーネスを手に入れるのが難しかったという事情があったので、自分たちでカスタムメイドのハーネスを製作する決断をすることになる。最初はまず自分たち自身のハーネスを製作していたが、だんだんと知り合いのハーネスも製作するようになっていった。
彼らのフライト活動では、その友人が飼っているウッディーという頭のいい犬がよく一緒だった。なぜ頭がいいと思われていたかというと、ご主人様やその友人たちが飛び立つと、誰に言われるまでもなく、ちゃんと着地場所を見つけて降りてくるのを待っていたからだ。ウッディーが亡くなった時、その亡骸は地元の山あいの谷(バレー)に埋められた。すると若いパイロット達は「ウッディーの谷へ行こう」と言ってはこの山から飛ぶようになっていった。やがて皆に愛された犬の記憶が重なるこのフライトエリアは、「ウッディーバレー」と称するハンググライダークラブとして、イタリアのハンググライダー界では有名になっていった。1985年、シモーネ・カルダーナとエリオ・ヴァレンティが趣味のハーネス製作を本当のプロフェッショナルメーカーにしたとき、その新会社の名称を決めることとなった。初めは「ウッディー」という犬の名がその埋葬地の名「ウッディーバレー」に、そしてハンググライダークラブの名になり、今はスカイスポーツ界で注目されるハーネスメーカー「ウッディーバレー」の社名となったわけだ。
1989年にステファノ・パイッサンが経営陣に加わった。この年、ウッディーバレーは400平方メートルの新社屋へ移転し、有技能者を雇い入れた。ステファノは今も会社の中でハンググライダーハーネス生産のトップとして働いている。毎年約350枚のハンググライダーハーネスが今もトレントの施設で生産されている。シモーネ・カルダーナは外部の人間を会社の監査に入れた。シモーネを展示イベントで見かけることもあるだろう。そこでの彼はパラグライダーハーネスシートの安全性開発について語ってくれている。
一方、シモーネはウイットに富んでいて如才ない典型的なイタリア人でもある。そしてこの誰もが認めるカリスマと見た目の良さの影には、強い意志と気遣いが隠されている。それは生産現場を案内してくれる彼がウッディーバレー社の最新設備やそれに関連するあらゆる運用作業について説明してくれる言葉に耳を傾けるとただちに明らかになる。
はっきり言って、安全性の「最も高い」ハーネスであれば避けられたであろう怪我は少なくない。そのプロテクション機能によって重篤な脊椎損傷を避けることができるのだ。実際のハーネスは安全性と重量、空気抵抗といった要素の妥協で成り立つものだが、ウッディーバレー社の開発チームは生産プロセスにおいて「安全性」を根本に考えている。現在、ウッディーバレー社ではプロテクションのシミュレーション試験で衝撃時のハーネスの角度に注目している。他の主要なハーネスメーカー同様、ウッディーバレー社も自社施設内に「ギロチンタイプ」の落下試験設備を持っている。通常そこで用いられるLTF91/09にもとづいた基準ではほぼシート直下への衝撃を対象としているのに対し、多くの専門家の意見ではこれは必ずしも事故発生時の実際の衝撃を再現するものではない。さらに多くのメーカーではこの基準を最低限満たすだけで、後方から上方にかけての幅広い範囲のプロテクションにまでこの基準を当てはめようとはしていない。ウッディーバレーはこの基準の方を最低限ととらえており、自社の落下試験方法に改良を加えて、より寝た姿勢でもハーネスを試験できるようにしている。
シモーネは「ハスカ」モデルのハーネスを使って45度に寝た姿勢で25Gの結果が得られる衝撃シミュレーションを見せてくれた。通常の基準のシート角度で求められている値が最大50Gであるので、これはまさに驚くべきことである!
このハーネスのプロテクション装備の極めて重要な問題に加えて、ウッディーバレー社はあらゆる可能性を見逃そうとはしない。あるとても古びた感じの機械が私の注意を引いた。私の質問にシモーネは「わが社の洗濯機ですよ」と言ってほほ笑んだ。この洗濯機にも見えるものは実はウッディーバレー社で作り出した耐久試験機だった。これでベルトやバックル、クリップの何千回もの取り付けシミュレーションを行うことができるのだ。それもカラビナがちゃんと閉じられているような理想的な状態ではなく、もっと最悪のケースを想定しての試験が行われる。具体的に言うと、ベルトが斜めにかかっていたり、カラビナの取り付けがずれていたり、しっかり閉じていなかったり、と、いろいろな状況を想定している。言い換えれば、実際に起こりうる全ての状況だ。
ウッディーバレー社は開発、試験の努力を絶やさないことで、ハーネス製造のアイデアを生み出してきた。それはコンピュータ化されたハイテクな作業に結実している。一つのハーネスは最大200ものパーツから構成されているが、見事に統合された生産技術が複雑な製作環境を支えている。
次に生産ルームに案内されてその生産プロセスへの理解が深まった。そこには17名におよぶスタッフが働いていた。そしてシモーネご自慢のレーザーカッターは極めて複雑なパーツを正確にカットする素晴らしい機能を秘めていた。そんなウッディーバレー社の生産混合システムは注目される:複雑なパーツはレーザーカッターで裁断され、もっと普通のパーツはポーランドの生産工場やここトレントで機械裁断されるのだ。
そして2週間おきにポーランドからトラックが来て、トレントでカットされたパーツを収集し、ハーネス完成品を配送する:ポーランドでハーネスの「組み立て」を行っているのだ。素晴らしい管理システムである。ひとつのハーネスのパーツ数は200にもおよぶ。全てのハーネスがサイズごとに分けて、個々のパーツのあらゆる寸法が記載されており、こうしてカットされたパーツは正確に仕分けられてポーランドの最終生産工程へ運ばれる。
ウッディーバレー社はハーネス専業メーカーとして、あらゆるパラグライダーのニーズに応じた完全な製品ラインナップを提供している。以下にその概略を掲げる。
HASKA
プレインフレートエアーバッグと最適設計のパラシュートコンテナなど最高のセキュリティーを提供するレクレーショナルモデル。
WANI
ハスカのシステムをベースにした基本性能を何も犠牲にしない新コンセプトの軽量リバーシブルモデル。
WANI LIGHT
開口部の新設計と底辺に挿入されたニチロール合金によるセミプレインフレートのエアーバッグを採用。複雑な素材構成によって実現された耐久性を犠牲にしない2.6kgの超軽量リバーシブルモデル。
EXCENSE
世界中のスクールから永年にわたり指示され、高い安全性が実証されているムースプロテクションのエントリーモデル。
EXCENSE AIR
世界中のスクールから永年にわたり高い安全性とコンパクトな利便性が指示されるエアーバッグプロテクションのエントリーモデル。
X-PRESSION
イカロのアクロチームとミハエルネスラーとのコラボレートで完成したアクロ専用モデル。
BIX
世界中のインストラクターから永年指示され、高い耐久性が実証されたムースプロテクションのタンデムパイロット専用モデル。
PASSENGER
世界中のスクールから永年指示さていれるエアーバッグプロテクションのタンデムパッセンジャー専用モデル。
X-RATED 6
ポッドタイプの実用化に初めて成功して以来常に世界クラス競技部門をリードし続ける6代目のフラッグシップモデル。
X-ALPS GTO
適切な軽量化と耐久性、操縦性など何も犠牲にする事ないパッケージで、ポッドタイプを広く一般上級パイロットにまで広めたレクレーショナル・ポッドモデル。
ターンポイント社長イロナ・アルブレヒトは創立時からウッディーバレーハーネスをドイツへ輸入しており、このイタリアンのメーカーとの協力によって顧客の要望や不具合に迅速に対応できることを第一に評価している。シモーネも機会をとらえては、東アジアでの生産に対してヨーロッパで生産する有利について話してくれた:「ヨーロッパではすべてが高価になるが、より早くよりフレキシブルに対応できる!」
イロナ・アルブレヒトはトレントへの訪問でクリストフ・ベーバーとアンゼイム・ラウとも会った。レッドブルXアルプスレースのディレクターであるクリストフ・ベーバーへのインタビューは数多く、フライトテストのエキスパートであるアンゼイム・ラウとも常に多くの議論を続けている。まさに興味深い顔ぶれだ。そしてシモーネと一緒になってハーネスについて話すとき必ず何か傾聴に値するものがある。パラグライダーに比べれば、ハーネスは理解も容易で予想も付きやすい。さらにハーネスと言う機材はさらに集中的な努力によってより大きなポテンシャルを本当に持っている。実用に適さなかったり、ちゃんと理解できないものは、たいてい消え去ってしまう。その一例が、少し前にウッディーバレー社ではフライト中のバックル調節を断念したという有名な話だ。イロナ・アルブレヒトも強調している。「調節式のバックルはある程度使用しているとすべりが止まらなくなり、セッティングをやり直さなければいけなくなってしまう。ターンポイントでは、ハーネスはまずシミュレーターを使って予めセッティングを行い、1本飛んだら微調整も考える、こうしてずっと変わらずに役に立つセッティングが得られるものだ。」
イタリアの素晴らしい夏の1日に終わりが来た。我々は次に北オーストリアを目指す。車内は静寂に包まれ、皆、この日見聞きしたことに思いを巡らせている。今までそれほどまでには重視していなかった「ハーネス」という機材の奥の深さにまさに触れたかのように感じさせる素晴らしく興味深い思いだった。ウッディーバレーよありがとう!