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マーカス・キングが新人XCパイロット向けのイカロ社の最新機インスティンクトTEに試乗。
EN-Bカテゴリーにはますます多くの機体がひしめき合っている。このカテゴリーに3モデルを用意しているメーカーもある。そのうえこれらモデル数には軽量バージョンは数えられていない。その中でドイツのイカロ社はこのEN-Bカテゴリーに2モデルのみを投入している(特別な超軽量バージョンはない):ハイレベル側のワイルドキャットTEと、これからXCに挑戦していこうとする新人パイロットを狙ったインスティンクトTEだ。
多くのライバルが待ち受けるこの部門において、どのようにイカロ社が、中級パイロットの求める高い安全性と信頼性を、彼らの必要とする性能と操縦性に融合させているのか、興味の尽きないところである。そしてイカロ社がこの機体の設計に用いたいくいつかのアイデアも興味深いものだ。ではレポートを始めよう。
まず気付かされたのは、この機体のパッキングサイズの小ささだ。これはすでに使われているデモ機であって、工場で念入りにたたまれたものではないのに、それでもなおほかの多くの機体より明らかに小さい。イカロ社ではもともとポルシェ・スカイテックスとドミニコ・ドクドのクロスの組み合わせで、強度を上げながらも軽さとパッキングサイズを下げることに成功してきた。
翼の中をのぞいてみると、翼が長持ちするように細部まで入念に製作されていることがわかる。リブと翼とのつなぎ目となる部分の縫製には特に注意が払われ、Tシーム技術を用いていてイカロ社の高度な補強が施されている。
気づきにくい革新技術が、翼端へ行くに従って翼断面型を変えていることだ。翼の前縁には、翼断面型を保持してくれるナイロンインサートが入っている。これはとても大きく、下面のAライン取付列を大きく越えて延びている。そこでイカロ社ではこの機体の取扱説明書の中で機体の収納にはセルバッグの使用を推奨している。もしナイロンロッドが折れ曲がったとしても、一切縫い直しをせずに交換することができる。
前縁に関しては、シャークノーズ・テクノロジーの類は全く見られないが、PAF(パフォーマンス・エアインテーク・フラップ)が用いられている。これは翼内の圧力が十分あるときはセルの一部の開口部が閉じられていて性能を向上させているが、立ち上げ時やつぶれの際に圧力が低下するとフラップが開いてセル開口部の実効面積を増大させるというものである。翼後縁には比較的大きなミニリブが用いられている。
ラインレイアウトはイカロ社がハイブリッド・スリー・ライナーと呼ぶもので、これは3本ライザーでラインの翼への取り付け部は最大5列となる形式である。
ライザー自体はつくりも良くラインともども明確に色分けされていて見分けやすく、テイクオフの準備に忙しい新人パイロットの助けとなる。強力なマグネットでライザーに取り付けられるブレークハンドルには取り外し可能な芯が入っている。ブレークラインでもブレークハンドルのスイベルに結び付けられる部分にはさらに補強のさやが付いていてブレークラインの損耗を防ぎ、これもイカロ社の細部の仕上がりの良さの一例となっている。
スピードシステムは通常の標準的なものだが、最近登場してきた新しいフラットプーリーを使っているのがうれしい。そしてライザーに関して最も革新的な技術はリアライザーにかけられたネオプレンカバーの中にある。トリム・スピード・オプティマイザーである。この詳細についてはサイドボックス欄を読んでほしい。
インスティンクトTEは4サイズで、飛行重量55~128㎏に対応しており、格好良い3標準カラーパターンがある。
この機体の対象となるパイロットの技術水準を考えると、グランドハンドリング特性は優しいものでなければならない。インスティンクトTEにはその期待を裏切る部分はまったく見当たらなかった。
センター付近のAラインを引いてやるとスムーズに立ち上がり、頭上に来てからはわずかな操作しか必要としない。もし片方に傾きかけてもその方向へ1歩踏み出してライザーに重さをかけると簡単に頭上に戻ってきてくれる。サーマルが入るテイクオフ条件でもインスティンクトTEはリラックスした挙動を維持している。
まず感じたのはブレークのかたさで、翼を見てみるとブレークラインを引いたときに大きなミニリブによって翼後縁がフラップの板のように曲がってきていて、特に翼端に近い部分ではかなり大きな面積が下がってきた。
これによって機敏な運動性を損なうことなくしっかりした操舵感が得られており、より強く引くときれいにサーマルに食いついていく。
一緒にサーマリングしていた友人によると、この機体のバンクのかかり方は素晴らしいものに見えたと言う。
ブレークコードの引き幅は、このクラスの機体らしいとても長いものだが、引き加減に応じてきれいに重くなっていく。強く引けばそれだけダイナミックな動きになるがコントロールがわかりやすく新人パイロットにとって優しい特性になっている。
私ははじめ最も遅いトリム設定で飛んでみたが、強いリフトにあたると押し戻される感じのすることがあった。次に自分の体重にあったセッティングにしたところ、リフトへの食いつきが良くなり、押し戻される感じは一切なくなった。
この機体はその安定感にもかかわらずどこに強いリフトがあるのかがわかりやすく、それもリラックスしていることでパイロットの期待した通りのフィードバックが得られる。
さらに機体の運動性を試してみて常に思い浮かんでくる言葉はスムーズさだった。ブレークを普通よりもちょっと強めに引くと、良くコーディネイトされたウイングオーバーを連続させることができるがタイミングのシビアさはほとんどない。
これはスパイラルダイブにおいても同じで、スパイラルに入れるのには他の一部の機体よりもちょっと鈍いがが、いったんスパイラルに入るとブレークで簡単にコントロールできる。スパイラルの停止でも、ブレークとちょっとした外側への体重移動の使用によって勢いを抜くのが楽で、スムーズにエグジットできる。急激なエグジットをして機体を浮き上がらせてみても、翼が突っ込む傾向は少なくスムーズなブレーク操作で楽に抑えることができる。
実際のところは何日も試乗する中でほかの機体と並走する機会はなかったが、このクラスでは良く飛ぶとほうと断言したい。リラックスした機体のフィーリングのおかげで、春の南アルプスのしばしば荒れた空でも最高の上がりを得る事ができたとは思う。確かにEN-Bハイエンドの性能を追求した一部のモデルほどの滑空性能ではないだろうが、それはこの機体に求められるものではない。はっきりしているのは、インスティンクトTEは初めての移動練習から気合の入った山岳XCまで存分に楽しませてくれる優れた機体ということだ。
スピードシステムは作動全域において使えるもので、踏み込みの重さは一定だ。滑空中の機体は安定しており、余分な挙動が出ず、次のサーマルを見つけていく作業に専念しやすい。
クロスカントリーの入門者の中にはあまり歓迎できない条件に陥ってしまう者もいるだろう。私自身も今回、いつもの山でちょっと飛んだときにリッジ沿いにトンビに付いて行ってサーマルを探してこの鳥の動きを追うことに集中していたところ、西風が入ってくる兆候に気づかず、サーマルを拾ったときには山並みの端からそのまま山の裏側へ持っていかれてしまった。まさに条件の変化に常に気をつけておかなければならないという教訓となったが、同時にこれは本物の乱気流の中でインスティンクトTEがどんな感じかを実際に試すチャンスとなった。激しく突き上げてくる条件だったが、インスティンクトTEの動きは安定していた。サーマルから飛び出してしまったときに前縁つぶれが起きたが、翼の反応は素晴らしく、即座に回復し、反動で突っ込む傾向も簡単に抑えられるものだった。そのエネルギーを利用してサーマルに入り直し、荒れていない空域まで上げることができた。
まとめ
ICARO社はこの機体によって、クロスカントリーを始めようとしているパイロットにしっかり狙いを定めてきた。それは、良好な性能を持ちながら、パイロットがリラックスして確実に技量を磨いていく事ができる機体となって結実した。パイロットが機体の反応を探求していく上で充分なダイナミックな動きを持ちながら、新人パイロットが戸惑うことなく、リラックスしていろいろな風の動きを知り飛び方を覚えていくことができる。大空への新たな挑戦にふさわしい機体である。
マーカスは総重量105kgで、アドバンス社のインプレス3ハーネスを用いて、インスティンクトTEのLサイズに試乗した。
サイズ(㎡) 21.8 24.3 28.2 31
飛行重量(kg) 55-75 65-90 85-110 95-128
アスペクト比 5.3
機体重量 4.35kg-5.6kg
認定 EN-B
インスティンクトTEにはイカロ社の最新の革新的技術トリム・スピード・オプティマイザー(TSO)が装備されている。
TSOとは?
パラグライダーのトリムスピードは、一つのサイズにおいてウエイトレンジの上限と下限では上限の重さの方が3km/h速くなる。
また機体のスピードは、長年の間に経年変化でラインが伸びたり縮んだりしても変わってくる。
イカロ社のTSOは、これらのさまざまな要素に対処してベストのトリムスピードを調整維持することが可能になる。
リアライザーに、トリムスピード増速調整を可能にする6段階にかみ合うメタルプレートのセットを設けた。このシステムは地上でのみ変更可能で、飛ぶ前にパイロットの体重に合わせて調整を行い、メタルプレートの位置決めをしたらプラスチックスライダーをメタルプレートの上へ押し下げてきてロックする仕組みとなっていて、このシステム全体はネオプレンカバーで覆われる。そして機体の取扱説明書に、パイロットの体重と機体の使用年数に応じた調整値の一覧表が掲載されている。
このしっかりした作りの金属製のシステムが壊れること自体まず考えられないが、もし万が一このシステムが壊れたとしてもかかっていた荷重はそのままリアライザーのバックアップ部分が支えてくれる。もちろんこの状態ではトリムスピードは最大値となるがこのトリム全開でも認定は受けており、安全に着陸することができる。
イカロ社では、TSOのセッティングを最速にすることはよりダイナミックな機体となりつぶれからの回復時の挙動に影響するとして、これは勧めていない。このシステムの目的はパイロットの体重と機体の使用年数に完璧に合ったトリムを得ることにある。
私はまず最も遅くなるセッティングで飛んでみた。良く飛んでくれるのだが、サーマルに対しては少し押し戻される感じがした。そこでTSOを私の体重にあったセッティングにしてみると、サーマルへのからみが良くなり、上昇風や乱気流に押し戻される傾向が減った。標準値よりも速いトリムであるにもかかわらず山の風下側の乱気流で何回もたたかれてみても機体のリカバリーは良く、このセッティングにしてから特に問題を感じることはなかった。