Wiils Wing Sailcloth Research

セールクロス研究: 性能と耐久性

ハンググライダーのセールの寿命を決める最も大きな要因は環境条件です。最も厳しい環境に置かれたセール(例:オーエンズバレー)は、ニューイングランドやヨーロッパといった場所に比べると3倍の速さで劣化してしまいます。また、同じような地域であっても、紫外線や土ぼこり、摩耗や擦り傷などに対して、パイロットが機体をどう扱うかによっても、機体の寿命に大きな違いが見られます。飛んでいる間よりも、降りた後で広げっぱなしにしていたり、それこそ車の屋根に積みっぱなしにしていたりする方が、よほど機体を傷めることになったりするのです。

 

従来のマイーラーセールVSダクロンセール

sailcloth_laminate_1では、ダクロン樹脂の糸で布を織ったダクロン セールクロスとマイラー製のフィルムに縦横・斜めの補強線を入れたマイラセールクロスを比べてみましょう。まずダクロンのクロス自体、機体ケースのような通常のポリエステルの布地に比べて、斜め方向を固定する樹脂加工に大きな違いがあります。この工程で生地の横糸と縦糸を固めて、いろいろな方向からの力にしっかり対応するのです。それでもこのように織り込まれたセールクロスにおいて、補強してくれる樹脂は縦横の糸ほどの強さはなく、樹脂を多くしていくと生地の固さが増して斜めの力にも変形しにくくなりますが、裂けには弱くなってしまいます。ポリヤント205/245やハイドラネットといった生地は、細く緊密に織り込まれた生地に太い、あるいはとても強い補強の糸を縦横の格子に組み合わせることで、変形にも裂けにも強くなっています。

一方で同じポリエステル系樹脂でも薄膜で高い強度を持つマイラーのフィルムを使ったマイラーセールでは、求められる条件に対して素材自体を変えています。樹脂加工に変わって、全方向に同じ強さを持つフィルムシートを用いて、糸を織り込んだ布地よりも効率の良い構造になっています。ただ一見完璧なフィルム素材も、裂けや表面の損耗には弱さがあります。

そこで最も高い力がかかる方向に裏打ちで補強の太い繊維を付け加えたのが、ラミネート構造のマイラーセールです。これらの繊維は大きな格子状に縦横・斜めに伸びていますが、糸のようにねじられてはおらず、その点でも糸を織り込んだ布地よりも効率的で、裂けに対しても大変強くなっています。さらに下側にもう1枚のフィルム層を配して補強繊維をはさみ込んでいます。以前のマイラーセールではさらに最下層に薄くて粗目のタフタ布地を配して2枚目のフィルム層を守るとともに縫製に対する強さと僅かながらに強度を上げていましたが、重さも20%増えたものでした。

また最も傷みやすいのが表面のフィルム層です。紫外線にさらされやすいため、もろくなってヒビが入り、よくこすれたり力が強くかかる所は特に傷みます。フィルムにヒビが入り始めると傷みはどんどん進んでしまいます。多くの素材と同じく、マイラーなどのポリエステル系も紫外線への耐性は、まず素材の厚さに比例します。ですから、より厚いダクロンセールの方がフィルムよりも耐久性がある一因ともなっています。さらに多くの繊維でできた糸からなるダクロンセールは、フィルム構造よりも頑丈になるのです。

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UVマイラーセールの登場

さて、ディメンション-ポリヤント社は産業、スポーツ用品、セールクロスなどの市場へ向けて驚くほど多種多様なハイテク繊維を開発、生産しているメーカーです。まだ何年も以前の話ではありませんが、ウイルスウイング社では、紫外線による劣化がなく、紫外線の透過を90%も止める(コーティングよりさらに高性能)そのマイラーフィルム素材に着目するに至りました。ただ、一つ問題がありました。当時の一般的なマイラーフィルム素材の20倍という極端に高い単価だったのです。しかし高価なフィルム層を薄くすれば価格の影響を抑えられ、たとえ50%の耐久性能向上であったとしても価格に見合う価値があると決断しました。ポリヤント社によれば、このUVフィルムをセールクロスに応用したのはウイルスウイングが初めてとのことです。

ウイルスウイング社では最初に導入したUVマイラーセールであるUVMセールに対して30%の耐久性向上を見込んでいました。そこでポリヤント社にそれを実証する紫外線耐久試験を依頼し、同じ仕様の従来型マイラーセールとともに実験を0時間、100時間、200時間、300時間にわたって実施してもらいました。紫外線にさらされていない0時間と最もさらされた300時間の比較結果が2つの図表です。上の図が従来型のPM05Tセール、下の図がUVM05Tセールで、それぞれセール生地のバイアス(斜め)、フィル(横)、ワープ(縦)の3方向について、荷重を高めていった際の伸びを測定していますが、中でも重要なのがバイアスの測定結果です。荷重に対して伸びが最も出るが、従来型のセールに対して最も大きな差が出るからです。従来型セールでは300時間の紫外線照射後に破断強度が30%落ちています。一方のUVM05Tでは、0時間での強度は変わりませんが、300時間のグラフカーブは大きく異なり、また破断に至る強度、伸びの特性も期待以上に良好なものでした。

以上の実験結果とウイルスウイング社での初期段階での経験から、最初のUVMシリーズのUVマイラーセールでも従来型のマイラーセールに対してセール寿命が50%高いとの予想に至りました。

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UVテクノーラセールの登場

その後もUVマイラーセールが進化して、さらなる高耐久性のためのテクノーラ繊維補強が登場して軽量化が一気に進んでいます。2016年現在ウイルスウイング社で使用されるマイラー素材は、全てがUVテクノーラとなりました。軽量化のオプションと機種と部分に採用されるハイブリッドな最適化も急速に進んでいます。現在のセール・ラインナップについては、Wiilswing Sailclothのページに掲載されています。https://www.opa.co.jp/hangglider/willswing-sailcloth/

T2C ODL Under test車載

T2C ODL Under 6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

適切な素材選択

セール素材には、厚さ(重さ)や構造(各種補強線や耐紫外線)など多くの種類があり、機種やその部位に適切に組み込まれる事で、目的の性能や耐久性、ハンドリングが得られます。
堅くて伸びにくい補強ダクロンは性能面でアドバンテージがあってもノーマルダクロンより劣化に弱くなるので、耐久性を考慮すると重くても厚い素材を選ぶ必要があります。またUV加工のない従来のマイラー素材は紫外線による劣化が激しく、ノーマルダクロンより大きく劣ります。最近開発されたUVマイラーにテクノーラ補強の軽量素材は、適度な伸びにくさ(性能面)と超軽量(ハンドリング面)に貢献しながら充分な耐久性が期待されています。

K_240HTP強化ダクロンとして、ポリヤント社の「スクエア」タイプの生地は、140g/㎡から380g/㎡まで、柔軟な「MT」仕上げと固めの「HTP」と、幅広いバラエティーの重量と仕上げで生産されています。この基本構造は、細く撚られた糸でとてもかたく織った生地でバイアス(斜め方向)を安定させ、より太い撚りの糸でリップストップの格子の補強を入れて細い撚り糸では得られない引き裂け強度を実現しているというものです。固めのHTP仕上げではバイアス方向の伸びの少ないしっかりしたセールクロスになりますが、引き裂け強度が最大30%低下します。

ウイルスウイング社では205MTと240MTのスクエアセールを使用しています。205MTは標準ダクロンのV170MTよりはるかに伸びが少なく、引き裂け強度も高くなっています。240は205より更に引き裂け強度も高くなっています。
ですから強化ダクロンの場合の問題は、選んだ重量が軽くて仕上げのかたい生地はノーマルのV170ほどの耐久性はないという事です。この問題は生地の品質とは関係のないことで選択の問題です。例えば165HTPスクエアは、ヨットのレース艇のセール用に開発された生地であり、そういったセールがワンシーズンを通して使用されることすらとても珍しいと思います。一方でハンググライダーのセールは消耗品で、素材が軽量であるほどセールの消耗は早まります。

同様に従来のマイラー素材についても、例えばポリヤント社にもレース艇のスピンネーカー用のラミネートセールがありますが、縦糸方向はとても強くても斜めと横糸方向ではV170の50%の強さしかないものです。実際このセールがハンググライダーに使用されたケースでは悪いことに、この生地の構造では横糸と斜め方向の固定は1枚のマイラーフィルムに大きく依存しており、しかもそのマイラーフィルムは表側に来るので紫外線による劣化にさらされ、短期間で劣化が進みました。ウイルスウイング社標準の耐紫外線テクノーラであるUVPXのコストはこの素材の4倍になります。理解しておかなければいけないのは、生地を選ぶのは素材メーカーではなくハンググライダーメーカーだということです。

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